現在2歳2ヶ月の娘が、箸で食べ物を器用にはさみ食べられるようになった。

この箸というのは、二本がつながっている矯正用の箸ではなく、大人と同じような二本の棒の箸のことである。まだ、正しい持ち方とまではいかないが、箸職人である私としては嬉しい限りである。

世間一般では、3歳頃から箸を持たせ練習させるケースが多いようである。しかし、我が家では、2歳を過ぎた頃から食事の時にはスプーン、フォークと一緒に箸を並べて置くようにしていた。

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箸作りの仕事をしていると「子供が正しく持てるようになる箸はありますか。」とよく質問される。これまでは返答に困っていたが、ようやくこの質問に対する答えの本質を見つけたような気がする。

私はこれまでに、初めて赤ちゃんが自分で使う「はじめての匙」、幼児食を自分で食べる「こどもすぷーん」「こどもふぉーく」などを、自分の娘にモニターとして試作品を使ってもらいながら形状や大きさを研究して製作してきた。そして、スプーンの次の段階となる箸作りに取り掛かった時も同じように数種類の試作品を手に取ってもらい、観察させてもらった。娘にとってはいい迷惑だったかもしれないが…

いつも、となりで食事の様子を観察してきた私の「箸を上手に使えるようになるための道のり」を紹介していきたいと思う。

結論から言わせてもらうと、

「箸だけでは箸を上手に使えるようにはならない。」

この考えに至った理由は、これまで幼児期から取り入れきたモンテッソーリ教育が大きな影響を与えていると確信したからだ。

決して、モンテッソーリ教育を推奨しているわけではない。ただ、これまで娘が経験してきたモンテッソーリ流の遊びが箸づかいに大きな影響を与えているのは明白である。モンテッソーリの保育園に入学させているわけではないし、あくまで自己流のモンテッソーリ教育なのであしからず。

娘には、さまざまな遊びに挑戦してもらってきた。その中で、箸づかいに影響を与えたと思われる遊びをいくつか紹介する。

●ポンポン移し遊び [1歳2ヶ月頃から]

箸の前段階として、ピンセットの使いこなしが挙げられる。最初は、ピンセットではなく先の幅が広いシュガートングを使わせていた。シュガートングを使い、ポンポンボールを製氷皿の中に入れる遊びをした。慣れてきた頃に、シュガートングをピンセットに持ち替えた。この動作で、ものをはさむ・はなすを練習していた。

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●スプーンのステップアップ[1歳2ヶ月]

スプーンは、靴のように子供の成長に合わせてサイズを少しずつ大きくしていくのが好ましい。口の大きさの3分の2程度の大きさが目安と言われている。ずっと小さいスプーンを使っていると口を大きく開ける必要がなく、あごの発達が遅れるというのだ。そこで、我が家でも「はじめての匙」では、やや小さくなってきたのでひとまわり大きめの「こどもすぷーん」にステップアップした。

それぞれのスプーンの仕様

 角度すくう部分の最大幅長さ深さ持ち手の形
はじめての匙まっすぐ25mm105mm浅い楕円
こどもすぷーん角度あり33mm130mmやや深い三角形

私が作る大人用スプーンの持ち手の部分は三角形をしているものが多い。その理由として、持った時に美しく見えること、安定感があること、操作しやすいことが挙げられる。したがって、こども用のスプーンも持ち手を三角形にして製作している。そうすることで、最初に使う三角形の箸への移行がスムーズになるのではないかと思っている。

●トング形式の箸の練習[1歳6ヶ月]

先ほどのポンポン移し遊びをピンセットから、トング形式の食事用の箸に切り替える。

私の仕事は、手の不自由な人のための箸を作ることである。そのため、試作品や旧モデルのトング形式の箸がたくさんある。箸の練習になればと思い、トング箸を食事用ではなく、遊び用に使わせ始めた。

個人的には、つながったトング箸の使用は、大人形式の箸の上達の妨げになると思っていたが、意外にもこれが功を奏したようである。食事で使うトング箸を遊びで使うことで、つまむ楽しさをそのまま食事に持ち込むことができたと思う。これにより、食事での箸のイメージができるようになった

●トング形式の箸での食事[1歳9ヶ月]

この頃から、食事の時にはスプーン、フォーク、トング箸の三点セットをフランス料理店のように並べて好きなもの選んで使えるようにセッティングするようになった。

先に書いたように、遊びでトング箸に慣れていたおかげで、しばらくするとトング箸で器用に食べ物をはさんで食べる姿が見られるようになってきた。決して、箸を使うように強制したわけではないが、やはり大人が箸で食事をしているのを見て、自分も使いたいという思いが強くなってきたのだろう。そして、トング箸ではあるが食べ物をはさんで自分で食べられる喜びを強く感じると同時に、自信にもつながったのではないかと思う。

もし、このトング箸というクッションをはさまずに、スプーン、フォーク、大人箸という三点セットにしていたなら、箸づかいの難しさに苦手意識が生まれ、箸を敬遠することになっていたかもしれないし、箸で食事をすることを諦めていたかもしれない。したがって、トング箸も箸づかいの道のりには、かなり有効であることが考えられる。

●色鉛筆でのお絵かき[1歳9ヶ月]

鉛筆を正しく持つことは、箸をきれいに持てるようになることに直結している。なぜなら、可動させる側の箸の持ち方は鉛筆の持ち方と同じだからである。だからこそ、この色鉛筆を使ってのお絵かきはとても大事な遊びと言える。

ここで三本の指で正しく鉛筆を持てるように教えることが箸づかいを上達させる大きなカギになってくる。

●ハサミを使う[1歳11ヶ月]

子供用の小さなハサミで紙を切る遊びを始める。

ハサミは、トングのように握って閉じるだけではなく、開く動作も必要になってくるので、さらに指先の繊細な動きの練習になる。この動作ができるようになると道具を使うということがより一層上手になってくる。

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●三角箸を食卓に[2歳]

しばらく、食事の様子を観察していると、あまりにも簡単に食べ物をつまむので、このままトング箸に慣れてしまっては、大人箸を上手に使うことができなくなるのではないかと不安に感じていた。

そこで、2歳の誕生日に長さ14cmの三角箸をプレゼントした。それから、食卓にはスプーン、フォーク、トング箸、三角箸の4点セットが並ぶようになった。それからは、大人の姿を見て、スプーンを使っていれば、自分もスプーンを使いたがり、フォークを使っていればフォークを選び、箸を使っていればトング箸や三角箸をと、道具を自由に持ち替えながら食事をしていた。今では、自分の判断で料理に合わせて道具を選びを楽しんでいるようである。

箸に関して言えば、三角箸よりもトング箸の出番の方がまだまだ多いようであるが、2歳2ヶ月で、三角箸の方は、突き刺したり、握り箸ではなく、大人の持ち方で食べ物をはさんで食べることができるようになった。

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●まとめ

「箸がうまく使える箸はない。」

箸づかいの上達には、箸だけでなく、えんぴつ・スプーン・ハサミなど様々な道具を遊びをとおして使いこなせるようになることが近道だと言える。

したがって、これからは、「どうやったら箸がうまく使えるようになりますか。」と聞かれたら、こう答えることにする。

  • 箸の前に使うスプーンを正しく持てるようになること。
  • ピンセットなどではさむ練習をすること。
  • 鉛筆を正しく持てるようになること。
  • はさみで指先の細かい動きができるようになること。

付け加えるなら、トング箸もはさんで食事を楽しむためには使ってもいいと思うが、長く使いすぎると抜け出せなくなる可能性もあるので、使った方がいいよとは声を大にしてはいいにくい。

以上のことができるようになれば、矯正箸を使わなくても大人箸でも十分に良さそうである。

一般的には、正しい持ち方は、手への負担が少なく、疲れにくいと言われている。

そして、使っている姿が最も美しいのが正しい持ち方である。

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